中小企業白書は、中小企業基本法に基づき中小企業庁が発行している年次報告書です。この記事では、2022年
中小企業白書の第一章「中小企業・小規模事業者の動向」の要点を解説します。なお、2022年 中小企業白書は2021年のデータをもとに作成されていることを留意ください。
2023年の中小企業診断士1次試験「中小企業政策」のテスト範囲でもありますので、2023年に中小企業診断士試験を受験する予定の方にも一読頂ければと思います。
参考:『中小企業庁「2022年 中小企業白書」』
目次
1.我が国経済の現状
業況判断DIの推移
上図は業況判断DIの推移です。
業況判断DIは、企業の景況感を示す指数のことです。「最近」と「先行き」の収益を中心とした全般的な業況について、全国の常用雇用者数50人以上の民間企業約1万社を対象に調査・集計しています。
調査対象企業の景況感(「良い」、「さほど良くない」、「悪い」)を集計し、「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値となります。
業況判断DIは2020年第2四半期を底に回復傾向にあり、2021年第4四半期には全産業でプラスに転じました。つまり、感覚的に景気が良くなったと感じる事業者が増えてきたということです。
2.中小企業・小規模事業者の現状
企業規模別に見た、売上高の推移
企業規模別に見た、経常利益の推移
中小企業の売上高は、リーマン・ショック後及び2011年の東日本大震災後に大きく落ち込み、2013 年頃から横ばいで推移した後、2016 年半ばより増加傾向となっていました。
2019年以降は減少傾向に転じた中で、感染症の影響により更に減少しましたが、売上高および経常利益は中小企業・大企業ともに2021年第1四半期を底に緩やかな増加傾向に転じています。
売上高において、大企業は136.4兆円、中小企業は123.3兆円です。
経常利益において、大企業は12兆円、中小企業は5.5兆円です。
企業規模別に見た、設備投資の推移
中小企業の設備投資は、2020年には減少傾向でしたが、2021年に入ると僅かに増加しました。一方で大企業の設備投資は僅かに減少傾向となっています。
企業規模別倒産件数の推移
倒産件数は2009年以降、減少傾向で推移してきた中で、2021年は資金繰り支援策などの効果もあり57年ぶりの低水準となりました。また、これを規模別に見ると、倒産件数の大部分を小規模企業が占めていることが分かります。
業種別の開廃業率
開業率について見ると、「宿泊業, 飲食サービス業」が最も高く、「生活関連サービス業, 娯楽業」、「電気・ガス・熱供給・水道業」と続いています。
また、廃業率について見ると、「宿泊業, 飲食サービス業」が最も高く、「生活関連サービス業, 娯楽業」、「金融業, 保険業」と続いています。
開業率と廃業率が共に高く、事業所の入れ替わりが盛んな業種は、「宿泊業, 飲食サービス業」、「生活関連サービス業, 娯楽業」であることが分かります。一方で、開業率と廃業率が共に低い業種は、「運輸業, 郵便業」、「鉱業, 採石業, 砂利採取業」、「複合サービス事業」です。
3.雇用の動向
完全失業率・有効求人倍率の推移
上図は雇用情勢を示す完全失業率と有効求人倍率の推移です。
完全失業率は、2009年中頃をピークに長期的に低下傾向で推移していましたが、2020年に入ると上昇傾向に転じ、その後は再び低下傾向で推移しています。また、有効求人倍率も2020年に入り、大きく低下したものの、再び緩やかな上昇傾向となっています。
雇用形態別に見た、雇用者数の推移(前年同月差)
雇用形態別に見た雇用者数の前年差の推移を表しています。「正規の職員・従業員」の雇用者数は2015年から毎年前年から増加しているのに対して、「非正規の職員・従業員」の雇用者数は2020年に大きく減少し、2021年も2020年と比べて減少幅が小さいものの、引き続き前年から減少しています。
また、月別に前年同月差を見ると、2020年の初め頃から「非正規の職員・従業員」の雇用者数は減少し、2021年4月頃にその傾向が一時的に収まっていましたが、8月頃から再び減少しています。12月は正規・非正規ともに前年同月より増加しているものの、その増加幅は小さい状況です。
4.原油・原材料価格の高騰
原油先物取引の価格推移
原油先物取引の価格の推移について、2020年4月頃に感染症の流行に伴う経済活動の停滞により大幅に低下したのち、上昇傾向に転じました。その後、上昇の傾向が続き、2022年2月下旬頃からその増加幅が更に大きくなりました。3月上旬に一度低下に転じるもその後は再び増加傾向に戻りました。
国内企業物価指数と消費者物価指数の推移
国内企業物価指数は、生産者の出荷又は卸売段階における財の物価の動きを、消費者物価指数は、小売段階の物価の動きを反映する指標として、それぞれの動向が注目されています。
国内企業物価指数は2020年12月から、消費者物価指数は2021年1月から上昇傾向に転じました。また、2021年以降におけるそれぞれの物価指数の推移を見ると、国内企業物価指数が消費者物価指数の変化を上回って急激に上昇していることが分かります。
5.事業継続計画(BCP)の取組
事業継続計画(BCP)の策定状況の推移(中小企業)
上図は中小企業における直近3年間のBCPの策定状況を見たものです。これを見ると、策定している企業は、毎年増加傾向にあるものの、半数近くは時期によらず策定していないという回答となっています。
事業の継続が困難になると想定しているリスク(中小企業)
BCP を「 策 定 し て いる」、「現在、策定中」、「策定を検討している」と回答した企業に対して、事業の継続が困難になると想定しているリスクを聞いたものです。これを見ると、「自然災害」と「感染症」がリスクとして高く認識されていることが分かります。
事業継続計画(BCP)を策定したことによる効果(中小企業)
上図はBCPを「策定している」と回答した企業が感じている効果を示したものです。
「従業員のリスクに対する意識が向上した」という回答が半数以上存在するほか、「事業の優先順位が明確」や「業務の定型化・マニュアル化」「業務の改善・効率化」など、日頃の業務改善にも効果が表れていることが見て取れるます。また「取引先からの信頼」といったように、自社の価値向上にもつながっていることが示唆されます。
6.労働生産性と分配
企業規模別に見た、従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)の推移
企業規模別に従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)の推移を示したものです。これを見ると、中小企業の労働生産性は製造業、非製造業共に、大きな落ち込みはないものの、長らく横ばい傾向が続いていることが分かります。
企業規模別の労働生産性の水準比較
上図は企業規模別に上位10%、中央値、下位10%の労働生産性の水準を示しています。これを見ると、いずれの区分においても、企業規模が大きくなるにつれて、労働生産性が高くなっていることが分かります。
しかし、中小企業の上位10%の水準は大企業中央値を上回っており、中小企業の中にも高い労働生産性の企業が一定程度存在していることが分かります。反対に、大企業の下位10%の水準は中小企業の中央値を下回っており、企業規模は大きいが労働生産性の低い企業も存在しています。
OECD加盟国の労働生産性(2020年)
上図は労働生産性について国際比較したものです。日本の労働生産性については、OECD 加盟国 38 か国中 28 位と OECD平均を下回り、首位のアイルランドの約4割弱程度の水準となっています。
7.経営資源の有効活用
休廃業・解散件数と経営者平均年齢の推移
休廃業・解散件数と我が国企業の経営者平均年齢の推移について見たものです。2021年の休廃業・解散件数は、4万4,377件であり、2020 年、2018 年に次ぐ、高水準です。また、経営者の平均年齢は上昇傾向にあり、休廃業・散件数増加の背景には経営者の高齢化が一因にあると考えられ、引き続き、こうした状況への対応は喫緊の課題です。
年代別に見た中小企業の経営者年齢の分布
年代別に中小企業の経営者年齢の分布です。これを見ると、2000年に経営者年齢のピーク(最も多い層)が「50歳~54歳」であったのに対して、2015年には経営者年齢のピークは「65歳~69歳」となっており、経営者年齢の高齢化が進んできたことが分かります。
2020年を見ると、経営者年齢の多い層が「60歳~64歳」、「65歳~69歳」、「70歳~74歳」に分散しており、これまでピークを形成していた団塊世代の経営者が事業承継や廃業などにより経営者を引退していることが示唆されます。一方で、70歳以上の経営者の割合は2020年も高まっていることから、経営者年齢の上昇に伴い事業承継を実施した企業と実施していない企業に二極化している様子が見て取れます。
M&A件数の推移
M&A件数の推移です。(株)レコフデータの調べによると、M&A件数は近年増加傾向で推移しており、2021年は過去最多の4,280件となりました。これはあくまでも公表されている件数ですが、M&Aについては未公表のものも一定数存在することを考慮すると、我が国におけるM&Aは更に活発化していることが推察されます。
コメント
近年では経営者の高齢化が問題となっており、その解決策としてM&Aが活発化しています。僕も中小企業診断士として事業承継およびM&A後に経営が円滑に進むような支援(PMI)ができるよう精進してまいります。