マーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラー氏によれば、マーケティングを最適な形で進めていくためのプロセス(マーケティングマネジメントプロセス)は ①市場機会を分析し、 ②標的市場を選定し、 ③マーケティングミックス戦略を開発し、 ④マーケティング活動を管理していく、という流れであると定義しています。この記事ではマーケティングマネジメントプロセスについて中小企業診断士が解説します。
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目次
マーケティングマネジメントプロセスの全体像一例
マーケティングは市場を分析し、どのセグメントで、誰に向けて、どんな商品を、どうやって提供していくのかを考えることが大切です。この流れをマーケティングマネジメントプロセスと言います。マーケティングマネジメントプロセスを知っていることで、やるべきことが明確になるので手戻り作業が減り、検討漏れを防ぐこともできるので失敗のリスクを軽減することができます。
マーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラー氏が定義するマーケティングプロセスの全体像を以下に示します。
- マーケティング環境分析
- マーケティング目標設定
- 市場細分化
- 市場ターゲティング
- 市場ポジショニング
- マーケティングミックスの開発・実行
各フローについて詳しく解説します。
マーケティング環境分析
マーケティング環境分析では、SWOT分析をおこないます。SWOT分析では。自社の強み(Strengh)と弱み(Weakness)、外部環境に対して機会(Opportunity)と驚異(Threat)をまとめたもので、それぞれの頭文字を取ってSWOTと言います。
機会(Opportunity)と驚異(Threat)を抽出するための外部環境分析ではPEST分析を行うことが一般的です。PEST分析は、政治(Politics)、Economy (経済)、Society (社会) 、Technology (技術)の4つの視点で分析します。
基本的にPEST分析で抽出した項目は一企業ではコントロール不可なものです。トヨタやGAFAレベルであれば話は変わるかもしれませんが、それは例外中の例外的な存在です。PEST分析の項目は数学的に言えば「定数」であると考えます。定数を無理やり変えようとするのは無駄な労力になってしまう可能性が高いので、PESTはビジネスをするうえで与えられた前提条件・ルールとして割り切って考えるようにするための分析であると言えます。
PEST分析の代表的な切り口を以下に示します。
政治 Politics | 法規制・規制緩和、国の政策、政府や外交関係の動向など |
経済 Economy | 景気、インフレ・デフレの進行、為替、金利、経済成長率、失業率など |
社会 Society | 人口動態、世帯数、世論・社会の意識、教育、健康、文化に関する情報など |
技術 Technology | AIやメタバースなどの技術革新、特許 |
自社の強み、弱みに関しては以下の切り口で考えると良いでしょう。
人的資源 | 経営陣、独自のノウハウを持つベテラン技術者・職人など |
財務資源 | 収益獲得能力、経営安置性、資金調達構造など |
物的資源 | 保有資産の価値など |
その他 | 各種情報、社風、ブランド、知的財産、組織文化など |
マーケティング目標設定
環境分析を終えたあとは目標を設定します。マーケティング目標は、経営目標としての企業全体の数値目標から導き出して問題ありません。
代表的な目標としては以下が挙げられます。
売上高目標 | もっともポピュラーな設定項目でしょう。 |
利益額、利益率目標 | 売上と同じくらい大切なのが、どれだけ利益を獲得できるかです。ただし、場合によっては先行投資と割り切って利益が出なくても良しとすることもあります。 |
市場占有率目標 | 市場占有率とは、目標とした市場の全需要のなかでの自社製品の売上高が占める割合です。市場占有率によって、どのような競争戦略を取るか検討する材料にもなります。 |
企業・製品イメージ目標 | この目標は市場のリーダー企業やニッチ戦略を取る場合に設定することが多いです。ただ、イメージというのは定量的に評価しにくいことに留意が必要です。 |
市場細分化
今の世のなか同じ年齢・性別でも人によって好きなものが多岐に分かれており、いわば趣味嗜好の多様化が進んでいます。このような状況では同じ製品を大量に投入していくこれまでのマーケティングでは成果を出すのが困難です。そこで、市場を細分化して、その市場のなかで最も適切な市場をターゲットとし、そのターゲットに対して最も効果的なマーケティング手段を投入するターゲットマーケティングが有効です。
ターゲットマーティングをするために最初に市場細分化をおこないます。
市場細分化には以下の手法があります。
ジオグラフィック基準 (地理的基準) | 地理的な基準を用いるもので、地域や気候、人口密度などにより市場を細分化 |
デモグラフィック基準 (人口統計的基準) | 人口統計的な基準を用いるもので、年齢、性別、所得、職業、学歴、国籍などで市場を細分化 |
サイコグラフィック基準 (心理的基準) | デモグラフィックでは区分出来ない消費者の心理的な側面に焦点をあてたもので、消費者の価値観やライフスタイルなどにより市場を細分化 |
行動変数基準 | 消費者の製品に対する知識、態度、使用、反対などに焦点をあてて細分化する方法で、ベネフィット、使用率、ロイヤルティなどにより市場を細分化 |
市場ターゲティング
市場を細分化したら、市場セグメントの魅力度を測定する方法を開発し、市場ターゲティングを行います。コトラーは市場ターゲティングをする際に以下3つの設定パターンを提唱しています。
無差別型
細分化された市場間の差異を考慮に入れずに単一の製品をすべての市場に投入していく方法。消費者ニーズの相違点ではなく共通点に着目した設定方法です。
メリットは製造コストやマーケティングコストを低減でることで、デメリットは単一製品ですべての消費者を満足させることは困難であることです。
差別型
細分化された市場ごとのニーズに適合した製品を複数の市場に対して投入していく方法です。
メリットは個々の市場のニーズに対応するため全体の売上が向上することで、デメリットは個別にマーケティングミックスを構築するためコスト高になることです。
集中型
細分化された市場のなかから特定の市場に限定し、そこに最適な製品を投入していく方法です。
メリットは経営資源の有効活用が図れることで、デメリットは市場に対するリスクを分散できないことです。
市場ポジショニング
市場ポジショニングとは、競争上の位置付けを意味し、製品間における競争のなかで、いかにして自社製品が競合製品と差異を図って優位に立つかを検討することです。市場細分化の最終段階としてポジショニングを行い、競争市場で自社の占めたい位置を決定します。
ポジショニング分析では消費者が意識する製品の知覚上の位置付けを表す図表を作成し、当該製品の相対的な知覚上の位置づけを分析・評価します。
下図はある目的で私が作成した首都圏私鉄のポジショニングマップ例です。
マーケティングミックスの開発・実行
環境の分析、目標の設定、ターゲットの設定を踏まえて具体的なマーケティングミックスを開発し実行していきます。
マーケティングミックスは、企業がターゲット市場において求める競争的地位を規定し支援するための手段です。それぞれのマーケティング要素について決定する事項は以下の通りです。
製品 Product | 製品の物的性質・特徴、品質、ブランド、保証、パッケージ、アフターサービス、製品の種類など |
価格 Price | 価格政策、価格設定法、価格変更の理由と時期、値入れ、値下げ、割引など |
チャネル・物流 Place | 流通経路、流通業者の選定・評価、倉庫の数・リッチ、倉庫の設備、輸送手段・頻度、適正な在庫量 |
プロモーション Promotion | 広告目的、広告予算、広告媒体、広告表現、広告効果測定、販売員の人数・教育訓練、業績評価、パブリシティの目的・対象・実施方法など |
これらはマーケティングの4Pとも言います。これらの視点から具体的な活動を決定していきます。
まとめ
以上、マーケティングマネジメントプロセスの概要を解説しました。この説明を見て何となく内容を理解しても、実際に自分でやってみると「ここはどうやって考えるんだろう?」と悩む箇所もあるかもしれません。
そのようなときはマーケティングに強い中小企業診断士に相談することも手です。状況によっては、補助金獲得のための経営計画書作成やマーケティングやその他の適切な専門家を紹介してもらえる等中小企業診断士尾利用するメリットは様々です。
ご自身で作成された場合も第三者の客観的な意見があると新しい視点が見えてくることもあると思います。いずれにしてもこの記事を見た方のマーケティングが上手くいくことを心よりお祈りしています。