2024年版「中小企業白書」ではその年の中小企業のビジネス傾向をまとめているだけではなく、令和6年度中小企業施策についても言及されています。なかには中小企業経営をする皆さまにとっても役立つ補助金や助成金、優遇施策につながる可能性があるものもあります。令和6年度では、どのようなコトに対して重点施策が行われるのか、役立ちそうな情報をまとめてみました。
目次
令和6年度は、新型コロナウイルス感染症の影響から経済活動が徐々に回復する一方、エネルギー価格や原材料費の高騰、人手不足や人口減少、さらには地政学的リスクといった複合的な課題に直面する年になると想定される。こうした環境下、政府は「中小企業の稼ぐ力」の強化を柱とし、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や生産性向上、新分野進出や海外展開、人材確保・育成などに重点を置いた政策を打ち出している。本資料(PDF)の令和6年度施策概要部分では、特に以下のような支援策が示されている。
(1) 中小企業向けの融資・保証制度の充実
令和6年度も、コロナ禍や物価高騰等による資金繰り難に対応しつつ、事業再編や新たなチャレンジを後押しするために、政府系金融機関(日本政策金融公庫、中小企業基盤整備機構など)の特別融資や信用保証制度が継続・強化される。具体的には、危機関連保証やセーフティネット保証の活用範囲を見直し、ポストコロナを見据えた資金調達を支援する枠組みを維持しながら、資本性劣後ローンのように、経営の安定と成長投資を両立できる商品も拡大される方向が示されている。
(2) 伴走型支援の強化
単に融資を行うだけではなく、商工会・商工会議所や地域金融機関、事業引継ぎ支援センターなどと連携し、経営課題に寄り添ったコンサルティングを行う「伴走型支援」も重点化される。具体的には、経営計画の策定や業態転換のノウハウ提供、財務指標の管理支援など、企業の変革を後押しするメニューが拡充される見込みである。
(1) IT導入補助金・ものづくり補助金の拡充
生産性の向上や業務効率化を図るために、ITツールや先端設備を導入する中小企業向けの補助金が令和6年度も継続される。IT導入補助金では、クラウドサービスやRPA、ECサイト構築など、業務デジタル化に資する幅広いソリューションが対象となる。ものづくり補助金では、製造工程の自動化設備やIoT連携システム導入など、先端技術を活用したプロジェクトを支援する枠がさらに広がる見通しである。
(2) DX認定制度の活用と専門家派遣
政府は、中小企業自らがデジタル戦略を策定し、段階的にDXを進められるよう、DX認定制度や診断ツールの活用を促進している。また、ITコーディネータや民間コンサルタント、地域のDXアドバイザーが企業を訪問し、課題抽出から導入のフォローアップまで一貫して支援する体制を整備することも盛り込まれている。
(1) 事業再構築補助金の継続と拡充
新たな分野への進出やビジネスモデルの大幅な転換を行う企業に対して、設備投資やマーケティング等の費用を補助する「事業再構築補助金」が令和6年度も注目される。特に、グリーン分野やデジタル分野など成長が見込まれるセクターへの取り組み、地域課題の解決につながる事業などは優先的に支援される見込みだ。さらに、小規模事業者が参画しやすいよう、審査区分や加点措置などの仕組みも見直されるとされている。
(2) 海外展開と越境EC支援
国内需要の先行きが不透明な中、海外市場に販路を求める中小企業に対して、JETRO(日本貿易振興機構)や自治体、地域金融機関などが連携して越境ECや海外展示会出展のサポートを行う枠組みが拡充される。また、コロナ後のインバウンド需要の回復もにらみ、国際的な旅行博や見本市への出展補助、デジタル技術を活用したプロモーション支援などが強化される。
(1) 人手不足対策とリスキリング支援
令和6年度も、人手不足が深刻化する中で生産性向上と並行して人材確保・育成が大きなテーマとなる。中小企業が従業員向けに専門的スキルを身につける研修を実施する際の補助制度や、リスキリング(学び直し)を推進する施策が拡大される。また、地域の大学や専門学校と連携した職業訓練プログラム、職業紹介機能を強化する「地域中小企業人材バンク」などの取り組みも支援対象となる。
(2) 多様な人材の活用
女性や若者の活躍推進、外国人材の適正な受け入れを促すための施策が拡充される。たとえば、女性起業家向けの融資制度の拡大、外国人留学生の雇用マッチング支援、障がい者の雇用環境整備を行う企業への助成金などが挙げられる。こうした施策を組み合わせることで、人材の多様性を高め、組織のイノベーションや新規事業創造につなげる狙いがある。
(1) 地域商社・地域クラスター形成支援
人口減少や需要縮小に直面する地方では、地域の中小企業が協働してマーケティングや物流拠点機能を担う「地域商社」、特定の産業集積を強化する「地域クラスター」の取り組みが重要とされている。令和6年度は、こうした地域連携によるブランド化や新商品開発を資金面・人材面で支える施策が引き続き整備される見込みだ。
(2) 産学官連携による技術開発・新規事業創出
中小企業が大学や研究機関と共同研究を行い、特許取得や製品化を目指す事業に対して補助金や技術相談を提供する制度も強化される。さらに、地元自治体や金融機関、大学が一体となってスタートアップ支援を行う拠点づくり(インキュベーション施設など)を後押しする枠組みも拡大される方向が示されている。
(1) 事業承継税制の継続・拡充
経営者の高齢化に伴う事業承継ニーズに応えるため、事業承継時にかかる相続税や贈与税の負担を軽減する「事業承継税制」は、令和6年度も継続される。とりわけ後継者不在の企業が増えている現状に対応すべく、親族外承継や従業員承継、M&Aなど多様な承継形態に即した優遇措置が検討されている。
(2) 事業承継・引継ぎ支援センターの機能強化
各都道府県に設置された事業承継・引継ぎ支援センターが、後継者探しやM&Aマッチングの場として機能している。令和6年度は、成約までのサポート体制を強化し、公的機関や民間仲介業者、地域金融機関との連携をさらに深める方策が示されている。
(1) カーボンニュートラル関連の補助金
脱炭素社会に向けた取り組みとして、中小企業が省エネ設備を導入したり、再生可能エネルギーを活用したりする際の費用を補助する制度が拡充される。特に、エネルギーコストの上昇が経営を圧迫しているため、電力使用量の見える化システムや高効率設備導入への支援策が厚くなる見込みだ。
(2) グリーン成長戦略と連携
自動車や蓄電池、バイオ関連など、国が掲げるグリーン成長戦略の重点分野に中小企業が参入しやすいよう、研究開発補助金や共同実証事業の枠を新設する方針が示されている。地域の企業が協力してサプライチェーン全体で環境負荷低減に取り組むケースも支援対象となり、環境対応がビジネスチャンスになるよう誘導していく狙いがある。
令和6年度の中小企業向け施策は、コロナ禍の影響が続く中での回復基調を確かな成長に結びつけるため、幅広い分野を対象に多層的な支援を用意している点が特徴的である。具体的には、金融支援・補助金・税制優遇・専門家派遣などを組み合わせることで、中小企業が安心して新しい投資や事業展開、人材戦略に踏み切れる環境を整える方針が示されている。
特に、デジタル技術を取り入れた生産性向上・業態転換、国内外における販路拡大や新市場開拓、地域の特性を活かした連携強化、そして人材確保と事業承継の円滑化が大きな柱となっている。また、環境・エネルギー問題への対応も重要度を増しており、中小企業がカーボンニュートラル関連の機会をとらえて新しいビジネスを開拓できるよう、補助や制度整備が進められる点も見逃せない。
これらの施策を効果的に活用するには、公的機関(商工会・商工会議所、地域金融機関、自治体など)や各種支援センターの情報提供や相談窓口を積極的に利用することが重要である。令和6年度に示された政策の多くは連携を前提としており、個々の企業が抱える課題を解決するうえでも、外部専門家や官民の支援ネットワークを活かすことで一層の効果を得られるだろう。こうした取組の蓄積が、中長期的には地域経済の底上げと中小企業の持続的成長に繋がると期待される。
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