ビジネスモデルとは、誰に、どのような価値を、どうやって提供し、どう収益を上げるか等のビジネスの仕組みを表すものです。企業を経営する皆さまは、補助金の獲得や金融機関からの融資を得る際にビジネスモデルについて聞かれるでしょう。ビジネスモデルについてご自身が理解されていると、そういった場面で話もスムーズに進みます。この記事では、中小企業診断士によるビジネスモデルの基本的な知識を解説します。
参考文献『この一冊で全部わかるビジネスモデル /SB Creative出版』
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目次
ビジネスモデルとは
ビジネスモデルとは、誰に、どのような価値を、どうやって提供し、どう収益を上げるか等のビジネスの仕組みを表すものです。一言で言えば、「何をしてどう儲けるか分かりやすく伝える」です。ビジネスモデルを検討するために、以下の3つを検討すると良いでしょう。
戦略モデルとは、顧客にどのような価値を、いかにして提供するかを決めるものです。ビジネスモデルの全体的な方向付けを決めるものです。
オペレーションモデルとは、戦略モデルを実現するための業務プロセスを表現するものです。つまり、企業が実際に行う一連の主活動を表します。
収益モデルとは、事業活動の収益の獲得方法とコストの構造を表現するモデルです。収益を獲得するために、どの程度の事業規模や単価、コストであるかを表します。
ビジネスモデルキャンバスというフレームワークで、上記3つをページ1枚で表現することもあります。
ビジネスモデルを設計するメリット
ビジネスモデルを作るメリットは大きく4点あります。
事業を始める前にビジネスモデルを書き出すことが大切です。頭のなかでぼんやりと思い描いていたイメージを可視化することで、収益性や事業リスク、自社リソースの過不足など新たな気付きを得られます。これらの気付きをもとによりビジネスのプランニングを洗練させていくことで事業立ち上げ時の失敗リスクを軽減できます。
新規事業だけではなく既存事業に対してもビジネスモデルの作成は有用です。今まで感覚でやっていたことを言語化することで、良く出来ている箇所やイマイチな箇所などイメージと現実のギャップを洗い出すことにも役立ちます。ビジネスモデルを作る過程でビジネスを俯瞰的に見るので、現状の問題点や新たな課題に気づくチャンスもあります。
ビジネスモデルという形で事業を見える化することで、社員や関係者の理解も深めることができます。また、ビジネスモデルが共通言語になり、お互いの認識のすり合わせや今後発展するためにはどうすれば良いか等の議論の活発化も期待できます。
ものづくり補助金や事業再構築補助金などの大型補助金を獲得したいときや銀行などの金融機関から融資を受けたいときには必ず事業の説明が必要になります。ビジネスモデルを作成することで、ご自身の事業への理解が深まるだけではなく、このような場面でもすぐに事業を説明できるので補助金や融資を獲得しやすくなります。
戦略モデルの構成要素
ビジネスモデルにはオペレーションモデルや収益モデル等があるというお話をしましたが、すべての基幹になるのが「戦略モデル」です。戦略モデルには4つの構成要素があります。
ビジネスには必ず顧客が居ます。ただし、顧客は市場にいる全ての顧客ではなく自社がターゲットとする顧客を絞ることが大切です。ビジネスは製品やサービスを通して顧客に価値を提供しています。そのため、どんな顧客(ターゲット)に、どのような価値を提供するか(提供価値)を戦略モデルで描くことが大切です。
商品やサービスには機能があり、顧客はその機能を求めて購入します。製品やサービスが持つ基本的な能力を「機能」と定義します。対して、基本的な機能に加え、固有の付加価値を「魅力」と定義します。
たとえば、右利き用のハサミと左利き用のハサミはどちらも「紙を切る機能」を保有していますが、左利きの人にとっては左利き用のハサミに「魅力」を感じます。
「敵を知り、己を知れば、百戦して殆うからず」というように顧客の需要を取り合う競合の規模や特徴を知ることは大切です。また、忘れてはいけないのが代替品の存在です。代替品のイメージとしては、デジタルカメラにとってのスマートフォン、書店にとってのamazonやデジタル書籍、映画やテレビにとってのYouTube・TikTokなどが挙げられます。
上記のような全体の要素が揃った際にビジネスが成立するかをきめる前提をコンテキストと呼びます。コンテキストはビジネスの妥当性と正当性で評価します。
妥当性とは、ビジネスモデルの前提として現実的であるかどうかを判断します。環境における妥当性、組織における妥当性等です。正当性とは、ビジネスモデルの前提として正当性があるかを判断します。組織外のステークホルダーにとって正当性があるか、組織内における正当性があるか等です。
ビジネスモデルの事例
これまでのビジネスの在り方に対して、その当時一石を投じた革新的なビジネスモデルを紹介します。
カメラメーカーのCanon(キヤノン)は世界初のインクジェットプリンターを発売しました。同社のインクジェットプリンターの本体は当時8,000円~14,000円台と割安でしたが、消耗品である取り換え用のインクカートリッジは3,000円~5,000円台と比較的高額です。これは、定期的に交換の必要な消耗品のほうが長期的には企業の収益源泉になります。
コア製品を安く販売し、消耗品で儲けるという発想はプリンターに限らず様々なところで流用されるようになりました。Adobeなどに代表されるように単品購入で一気に設けるのではなくサブスクリプションで細く長く儲けるのも提供するのも消耗品モデルと似たような考え方であると言えます。
なお、消耗品モデルの成立条件としては、消耗品がコア製品の補完製品になっていること、消耗品を自社で製造する能力があること、はじめにマーケティング費用と宣伝チャンネルを確保できることが大事です。
個人間取引は、個人同士で製品を売買したり、情報を共有したりすることを仲介するビジネスモデルです。これまで消費者は法人からモノを買うのが当たり前でしたがインターネットの普及により個人間でも取引をしやすくなりました。このビジネスモデルで台頭したのがメルカリです。こあれまでヤフオク!やモバオクが既に幅を利かせていたにも関わらず、スマートフォンに特化した独自サービスを展開することで売上を拡大しました。
メルカリの最大の特徴はスマホのみで出品や購入ができる気軽さです。この気軽さが今までヤフオク!などを使用していなかった層に刺さり成功要因となりました。
個人間取引の成立条件としては、一定規模の市場と顧客が存在すること、利用者の手間を省き安全性を確保すること、提供品のジャンルが多様であることが大事です。
メイクトゥーオーダーとは、顧客が受注を受けた後に製造を行うビジネスモデルです。特徴品ながらも納期を短縮したり、低単価で高い意匠性を提供したりする独自の仕組みづくりを提供価値とする点で特徴があります。
自動車の金型部品などの関連部品を製造するミスミは圧倒的な納期の短さで競争優位を築いています。金型部品の受注生産は通常、注文を受けてから1週間単位の期間を要するのに対して、ミスミは2日以内で提供します。ミスミはこれを達成するために半製品からの受注生産という独自の仕組みを構築しました。半製品とは、海外の工場で半分だけ完成させた大量ロット生産の部品です。それを取引先企業がある自社拠点へ送り、注文通りに加工して完成品に仕上げます。半製品から完成品を作ることで在庫を最小限に抑え、コストカットと納期短縮の両方を実現します。
メイクトゥーオーダーの成立条件としては、自社に製品の開発・製造能力があること、営業と製造、物流各部門の連携が十分にできること、圧倒的な競争優位を持つことが大事です。
余談ですが、ミスミは以前記事で紹介した三枝匡さんが会長をやっていたことでも有名です。
参考記事:『中小企業診断士がオススメする良書紹介「V字回復の経営」』