このまえ五島列島に訪れたとき、時間があったので「山本二三美術館」という場所に行きました。恥ずかしながら僕は山本先生を存じなかったのですが、美術館の展示を見てジブリなど日本を代表するアニメの美術監督をされていたことを知りました。山本先生の生まれが五島であり、五島の風景も描かれておりました。どことなく懐かしく、美しい絵ばかりで魅入ってしまいました。何となく興味本位で入ったけれどもとても楽しめて得した気分です。
ところで館内には「アニメツーリズム88」スポットの認定証とスタンプが置かれていました。どうやら色々なアニメを混合したアニメ聖地巡礼スタンプラリーがあるようです。アニメが好きで、百名城スタンプラリーもしている僕としてはこのスタンプがとても気になりました。ここで知ったのも何かの縁だと思いスタンプラリーによるアニメツーリズムについて調べてみることにしました。
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目次
アニメツーリズムとは何か
アニメツーリズムとは、アニメや漫画の作品の舞台となった土地や建物などを訪れる旅行のことです。「聖地巡礼」とも呼ばれています。
アニメファンは、作品に登場する場所を訪れることで、作品の世界観をより深く味わうことができます。また、作品ゆかりのグッズを購入したり、地元の料理を食べたりすることで、旅の思い出を作ることができます。
アニメツーリズムは、地域活性化に効果的な取り組みとして注目されています。アニメファンは、作品ゆかりの地を訪れるために、宿泊や交通費、食費などを費やします。また、地元のイベントに参加したり、グッズを購入したりすることで、地域経済に貢献することができます。
近年、アニメや漫画は世界中で人気が高まっており、アニメツーリズムもますます盛んになっています。日本政府も、アニメツーリズムを推進しており、各地でアニメ聖地を巡るツアーなどが企画されています。
アニメツーリズムの聖地巡礼スタンプラリー事例5選
アニメツーリズム企画の一例を紹介します。
引用:『一般社団法人アニメツーリズム協会』
僕が山本二三美術館で見かけたスタンプラリーです。ガンダムの生みの親である富野 由悠季監督が理事長を務めている一般社団法人アニメツーリズム協会が運営しており、全国88カ所にスタンプが設置されています。
似たようなものに百名城スタンプラリーがあります。ただ百名城は史跡を対象としているので新しく増えることはありませんがアニメは違います。毎月毎年新しいアニメがどんどん出てくるのでどの作品を認定するのかなぁと思って調べていたのですが毎年選ばれる聖地が変わるようでした。
全国あちこちに点在するスタンプが毎年変わるとなるとさすがに手を出す気にはなれないなぁと思いました。色々なアニメ作品のごった煮なので特に興味のないアニメのご当地巡りもしてみようとは普通思いません。しかし不変のスタンプ帳に88個のスタンプを貯めていく過程があれば、スタンプを貯める目的で行ってみようとなり、そこの地域やアニメに興味を持つキッカケにのなりえそうですが毎年更新されるとハードルが高いです。もう少しコレクターとして楽しめる要素を取り入れることが課題だと思いました。アニメは沢山あるし新しいものもドンドン出てくるので仕方がないのかもしれないですが、何となくアニメ配給会社のお金のにおいも感じてしまう企画設計です。
引用:『沼津市ホームページ』
作品の舞台となった沼津市を訪れ、劇中に登場する場所を巡る「沼津まちあるきスタンプ」という企画をやっています。市内を中心に作品と各店舗がコラボレーションして行っている、ラブライブ!サンシャイン!!公式のご当地スタンプであり、スタンプを押しながら沼津のまちを歩くことで、ロケ地巡りの記念になります。スタンプは全部で36個(2024年5月時点)もあるので沼津市の大半を歩き回ることになるでしょう。ラブライブをキッカケに沼津の街並みを知って貰うには良さそうな取り組みですね。
引用:『ゴールデンカムイARスタンプラリー』
北海道が舞台となったアニメ・漫画「ゴールデンカムイ」のARスタンプラリーです。以前、『アニメ・漫画で地域活性化を試みた地方自治体事例まとめ6選』でも取り上げました。
このスタンプラリーはX(旧Twitter)などでも話題になりました。その理由がスタンプの設置場所です。
立ち寄るチェックインスポットは札幌、小樽、旭川、日高、空知、道東エリアの網走、弟子屈、釧路、阿寒湖に点在しています。全てのスポットを順に直線で結んでも800kmを超えるようです。
地図上では一見近そうに見える札幌から夕張までは約60~70km、札幌から旭川までは約130kmあります。道東の網走や釧路、弟子屈、阿寒湖に至っては、いずれも札幌から300km以上あります。完走できる人が居るのかは謎ですが、これくらい難易度の高い方が燃える人も居るかもしれませんね。
引用:『大洗観光協会ホームページ』
いわずとしれた聖地巡礼の成功事例として有名なガールズ&パンツァー(ガルパン)×大洗市です。大洗市でも定期的にスタンプラリーをやっています。ガルパン博覧会などスタンプラリー以外にもイベントを企画しており、大洗市へ訪れてもらうための企画を数多く実施しています。
引用:『中日本高速道路』
中日本高速道路株式会社(NEXCO 中日本)の企画で「ゆるキャン△」の聖地巡礼スタンプラリーが開催されました。ゆるキャン△のご当地を巡る企画ですが山梨県・長野県・静岡県と3県にまたがりスタンプが設置されており、高速道路の利用を想定した設計となっています。3 月 21 日から 10 月末までの実施期間中に 7,636人の参加があり、38 カ所のチェックポイントを延べ 74,147 人が訪れたとのことでした。
アニメツーリズムの聖地巡礼スタンプラリーに見る課題
アニメツーリズムの聖地巡礼スタンプラリーは、近年人気が高まっているイベントですが、運営にはいくつかの課題が考えられます。
1. 参加者数の増加への対応
人気作品の場合、スタンプラリー参加者が予想以上に増え、運営が困難になる可能性があります。特に、チェックポイントとなる場所が狭い場合や、イベント期間が短期間の場合には、参加者が密集してしまい、トラブルが発生する可能性があります。
2. 地域住民への配慮
スタンプラリーの参加者が増えることで、地域住民の生活に支障が出る可能性があります。例えば、騒音やゴミの問題、駐車場の不足などが考えられます。また、マナーの悪い参加者がいると、地域住民の反感を買う可能性もあります。
3. 経済効果の持続
スタンプラリーイベントを開催することで、地域への経済効果が期待できますが、イベント終了後もその効果を持続させることが課題です。そのためには、リピーターを増やすための施策や、イベントをきっかけとした地域活性化の取り組みなどが重要になります。
4. 関係機関との連携
スタンプラリーイベントを開催するには、様々な関係機関との連携が必要となります。例えば、チェックポイントとなる施設の管理者、地元自治体、観光協会などが関係機関として挙げられます。関係機関との連携がうまくいかないと、イベントの運営が円滑に進まない可能性があります。
5. 著作権の問題
スタンプラリーの運営にあたっては、作品に関する著作権に配慮する必要があります。例えば、作品の画像やイラストを使用する場合には、事前に権利者に許可を得る必要があります。
また先述の事例の中日本高速道路株式会社(NEXCO 中日本)の報告書ではデジタルのスタンプラリーを実施する場合に以下が課題として挙げられていました。
集客の時間帯
参加者が獲得したスタンプの数を時間帯別に集計すると、3 分の 1 は、一般に商店等が営業していない夜間~早朝の時間帯に含まれていました。チェックポイントとなる施設の営業時間にかかわらずいつでもスタンプを獲得できることは、参加者にとってはメリットですが、地域や商店にとっては賑わいや売上につながりにくい状況と言えます。
集客後の周辺行動の誘発
今回のデジタルスタンプラリーに使用したスマホアプリには、ゆるキャン△スタンプラリーとは別に、サービスエリアの食事利用でスタンプが貯まるスタンプカード機能も存在します。スタンプラリー参加を目的としてアプリをインストールした参加者のうち食事スタンプカード機能も利用するようになったユーザーの数や、従前から食事スタンプカード機能を使っていてスタンプラリーに参加したユーザーの数を追跡すると、それぞれ移行ユーザーは 5%以下であることがわかりました。特定のインセンティブを目的とするユーザーは、行動目的が明確で、目的外の行動を誘発しづらい傾向があります。
アニメツーリズムの聖地巡礼スタンプラリーは、地域活性化に効果的な取り組みである一方、様々な課題も存在します。これらの課題を克服し、持続可能なイベントとして運営していくためには、関係者間の連携や創意工夫が重要となります。